今の若い人たちは北杜夫の名前を知っているだろうか。 歌人の斎藤茂吉の息子で、売れっ子の作家だった。 一方、文学史に遺る仕事もしている。 デビュー作は『幽霊』。 『どくとるマンボウ航海記』をはじめとする ユーモアエッセイの「マンボウ」シリーズで人気を博した。 代表作は『楡家の人びと』など。 精神科医で、しかも本人は躁鬱病というちょっと風変わりな経歴 (昭和2年生まれ。全集が新潮社から刊行されている)。 埴谷雄高を知らない人には説明のしようがない。 世界文学史上、未曾有の形而上学的思弁長編小説とされた 『死霊』の作者と紹介するしかないだろう。 ある世代には、 吉本隆明と対になる存在として印象付けられているのではないか (明治42年生まれ。全集が講談社から刊行されている)。 この北と埴谷の型破りな対談が『難解人間VS躁鬱人間』と 題して刊行されている(平成2年、中央公論社)。 その中に、首相の靖国神社参拝を巡るやり取りがある。 2人の名前を知っている人には興味深い内容なので以下、 一切コメントしないで引用する。 北いわく、 「大体戦争というものは、いくら正義の戦いと言っても、 みんな軍国主義戦争ですよ。しかし、人間は、 自分の生まれた国を愛するのは当然でしょう。 だから、無駄死にしたけど、御国のために捧げた靖国神社に首相が、 その首相はとんでもない野郎かもしらんけど、参るのが当然でしょう。 …だって向こうじゃ、英霊の墓に大統領初め花輪を捧げて 黙祷しますよ、それが当然でしょう」 埴谷いわく、 「向こうは当たり前です。 向こうは無名戦士の墓に花輪を捧げるってことは 当たり前のことですね。戦犯の東條(英機)がまつってあるにせよ、 靖国神社はどうしてできないんでしょう」
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