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高森明勅
2013.10.10 12:39

北杜夫と埴谷雄高の「靖国」問答

今の若い人たちは北杜夫の名前を知っているだろうか。

歌人の斎藤茂吉の息子で、売れっ子の作家だった。

一方、文学史に遺る仕事もしている。

デビュー作は『幽霊』。

『どくとるマンボウ航海記』をはじめとする
ユーモアエッセイの「マンボウ」シリーズで人気を博した。

代表作は『楡家の人びと』など。

精神科医で、しかも本人は躁鬱病というちょっと風変わりな経歴
(昭和2年生まれ。全集が新潮社から刊行されている)。

埴谷雄高を知らない人には説明のしようがない。

世界文学史上、未曾有の形而上学的思弁長編小説とされた
『死霊』の作者と紹介するしかないだろう。

ある世代には、
吉本隆明と対になる存在として印象付けられているのではないか
(明治42年生まれ。全集が講談社から刊行されている)。

この北と埴谷の型破りな対談が『難解人間VS躁鬱人間』と
題して刊行されている(平成2年、中央公論社)。

その中に、首相の靖国神社参拝を巡るやり取りがある。

2人の名前を知っている人には興味深い内容なので以下、
一切コメントしないで引用する。

北いわく、
「大体戦争というものは、いくら正義の戦いと言っても、
みんな軍国主義戦争ですよ。しかし、人間は、
自分の生まれた国を愛するのは当然でしょう。
だから、無駄死にしたけど、御国のために捧げた靖国神社に首相が、
その首相はとんでもない野郎かもしらんけど、参るのが当然でしょう。
…だって向こうじゃ、英霊の墓に大統領初め花輪を捧げて
黙祷しますよ、それが当然でしょう」

埴谷いわく、
「向こうは当たり前です。
向こうは無名戦士の墓に花輪を捧げるってことは
当たり前のことですね。戦犯の東條(英機)がまつってあるにせよ、
靖国神社はどうしてできないんでしょう」
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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